仲介手数料(報酬)の受領は、宅地建物取引業における最大の収益源です。しかし、その計算根拠を誤り、法定の上限額を超えた報酬を受け取ってしまうと、会社の存続を揺るがす厳しい行政処分の対象となります。
今回は、土地の売買媒介において、誤って「建物の建築請負代金」を合算して仲介手数料を算出し、実際に東京都から「業務停止処分」という非常に重いペナルティを受けた事例をご紹介します。日常の取引に潜むリスクと、自社で徹底すべきチェック体制について解説します。
1. 行政処分実例:株式会社ファイン・アンド・パートナーのケース
まずは、実際の処分内容を確認しましょう。
- 事業者名: 株式会社ファイン・アンド・パートナー(免許証番号:東京都知事(3)第93121号)
- 本社住所: 東京都杉並区
- 処分等年月日: 2026年3月10日
- 処分等を行った者: 東京都
- 処分等の種類: 業務停止(11日間)
- 根拠法令: 宅地建物取引業法第65条第2項第2号
【違反行為の概要】 被処分者は、令和4年(2022年)3月、売主Aと買主B間の「宅地(土地)のみ」の売買媒介において、買主Bから法定上限を超える報酬を受領した。 上限超過の理由は、手数料の算出基礎となる金額を、土地の代金だけでなく、AB間で別途締結された「建設工事請負契約(当該土地上に建物を建築する契約)」の代金額を合算して計算したためである。(宅地建物取引業法第46条第2項違反)
事例のポイント 指示処分にとどまらず「11日間の業務停止」という極めて重い処分が下されています。不当に高額な報酬を受領する行為は、消費者の財産的利益を直接的に侵害するため、行政の対応も非常に厳格になります。
2. 法令のおさらい:宅建業法第46条について
今回の違反に直結した「報酬の額の制限」について、改めておさらいします。
宅建業法第46条では、宅建業者が受け取ることができる報酬の上限額を国土交通省の告示によって定めており、いかなる名目であっても、これを超える報酬を受け取ってはならないと規定しています。
今回のケースで最も重要なのは、「宅建業者として媒介した取引の対象が何であったか」です。 本件はあくまで「宅地(土地)のみの売買媒介」です。売買の当事者間で「建設工事請負契約」が結ばれていたとしても、それは宅建業としての売買の対象には含まれません。したがって、建設工事請負代金を合算して仲介手数料のベースとなる「売買代金」を水増しすることは、明確な報酬の過剰受領(法令違反)となります。
3. 自社で気をつけるべきこと(実務指南)
報酬に関する違反は、「悪意がなかった」「計算上の勘違いだった」という言い訳が一切通用しません。業務停止処分という致命的な事態を防ぐため、以下のポイントを社内で徹底しましょう。
- ① 「媒介の対象」と「取引価格」の正確な把握 本件のような土地と建物の建築がセットになった取引(建築条件付き土地の売買など)や、中古物件の売買とリフォーム工事を同時に行う取引など、複数の契約が絡む場合は特に注意が必要です。「どこからどこまでが宅建業法上の媒介対象なのか」を明確に区別し、対象外の請負代金などを手数料の計算根拠に含めないよう徹底してください。
- ② 報酬計算と請求書発行の「ダブルチェック体制」 営業担当者が単独で計算し、そのまま請求書を発行・受領する体制は非常に危険です。請求を行う前に、店長や事務部門、コンプライアンス管理者が「売買契約書」の売買代金と照らし合わせ、算定基準となる取引額と請求予定の報酬額が法定上限内に収まっているか、必ずダブルチェック(相互確認)を行うフローを確立しましょう。
- ③ 不当な名目での金銭受領の禁止を周知 仲介手数料の上限を超えないようにと、コンサルティング料、書類作成費、企画料などの名目で別途費用を請求することも、正当な理由(依頼者の特別の依頼に基づく広告費など)がない限り、実質的な上限違反とみなされます。社内研修等で、法定報酬以外の受領リスクについて定期的に周知徹底することが重要です。
4. まとめ
報酬の上限規制は、消費者を不当な請求から守るための強行規定であり、宅建業の根幹をなすルールです。「業務停止処分」となれば、その期間中の営業活動(新たな契約や広告など)が一切できなくなるだけでなく、レピュテーション(信用)の失墜により、今後の事業継続に致命的なダメージを与えます。
「ちょっとした解釈の勘違い」が会社の命取りになることを肝に銘じ、正しい報酬額の算出ロジックの共有と、組織的なチェック体制が機能しているか、今一度社内プロセスを見直すことを強くお勧めします。


