基本の書面不備と報酬の受領超過にご注意! 自社で徹底すべきコンプライアンス管理のポイント

行政処分実例

宅地建物取引業において、重要事項説明書(35条書面)や契約書(37条書面)の正確な作成、そして法定上限内での報酬受領は、業務の最も基本的なルールです。しかし、日々の業務に追われる中で、記載項目の抜け漏れや、共同媒介時の報酬額の認識不足などから、思わぬ法令違反を引き起こしてしまうケースが後を絶ちません。

今回は、基本的な書面の記載不備と報酬限度額の超過により、実際に東京都から「業務停止処分」という重い行政処分を受けた事例をご紹介します。この事例をもとに、自社でどのような点に注意し、どのようなチェック体制を構築すべきかを解説します。

1. 行政処分実例:株式会社デュアルアシストのケース

まずは、実際の処分内容を確認しましょう。

  • 事業者名: 株式会社デュアルアシスト(登録番号:埼玉県知事(2)第23743)
  • 本社住所: 埼玉県川口市
  • 処分等年月日: 2026年3月10日
  • 処分等を行った者: 東京都
  • 処分等の種類: 業務停止(都内全域における業務の全部停止22日間)
  • 根拠法令: 宅地建物取引業法第65条第4項第2号
  • 違反行為の概要: 令和4年12月に行った建物の賃貸借の媒介業務において、以下の違反が認められた。
    1. 宅建業法第35条違反: 重要事項説明書に宅建士をして記名させなかった。また、法令に基づく制限の概要、建物状況調査の実施の有無、契約解除の定め(無断不在1ヶ月以上や反社会的勢力の排除)、台所の整備状況についての記載が欠落していた。
    2. 宅建業法第37条違反: 37条書面(賃貸借契約書)に、礼金についての記載がなかった。
    3. 宅建業法第46条違反: 共同媒介業者と共に、貸主・借主の双方から合計で借賃の1ヶ月分の2.2倍に相当する、法定限度額を超えた報酬を受領した。

事例のポイント

このケースでは、「宅建士の記名漏れ」「法定記載事項の大幅な欠落」「報酬限度額の超過」という、実務の根幹に関わる重大なミスが重なっています。特に、共同媒介において全体の報酬限度額をオーバーしてしまった点や、それに伴い22日間もの業務停止処分(都内全域)を受けた点は、経営に直結する大きなダメージとなります。

2. 法令のおさらい:宅建業法第35条・37条・46条について

今回の違反事案に関連する法令のポイントを整理します。

  • 第35条(重要事項の説明等): 契約締結前に、宅地建物取引士をして重要事項を記載した書面を交付して説明させ、当該書面には宅建士が記名しなければなりません。また、法令に基づく制限やインフラ整備状況、契約解除の定めなど、法定された項目を網羅的に記載する義務があります。
  • 第37条(書面の交付): 契約締結後遅滞なく、契約内容を記載した書面を交付しなければなりません。賃貸借の場合、借賃以外の金銭(礼金など)の授受に関する定めがあるときは、その内容を記載する必要があります。
  • 第46条(報酬額の制限): 宅建業者が受け取ることができる報酬額は、国土交通省の告示によって上限が定められています。賃貸借の媒介の場合、貸主・借主の双方から受け取る報酬の合計額は「借賃の1ヶ月分(+消費税)」以内に収めなければなりません。複数の業者が関わる共同媒介であっても、この「合計額の上限」は変わりません。

3. 自社で気をつけるべきこと(実務指南)

このような業務停止処分を防ぐため、宅建業者は自社で以下のポイントに注意し、確実なチェック体制を構築する必要があります。

① 重要事項説明書(35条書面)の記名と記載要件の徹底

宅建士の記名忘れは、単純なヒューマンエラーですが重大な違反です。また、記載事項は法改正により追加されることもあるため、フォーマットの使い回しには危険が伴います。

  • 対策: 契約書類の作成担当者と、内容をチェック・説明する宅建士を分けるなど、ダブルチェックの体制を構築しましょう。また、最新の法定記載事項を網羅した「チェックリスト」を作成し、案件ごとにチェックマークを入れる運用を徹底してください。

② 37条書面の必要的記載事項の抜け漏れ防止

礼金や敷金など、借賃以外の金銭授受があるにもかかわらず書面に記載しないことは、後々の金銭トラブルの火種にもなります。

  • 対策: 35条書面(重説)と37条書面(契約書)の内容に齟齬がないか、または一方にしか記載されていない項目がないかを突き合わせるフローを設けてください。システムを導入して、入力漏れがある場合は出力できないようにするのも有効な手段です。

③ 共同媒介時の報酬限度額の確認(「1ヶ月分」の壁)

自社の受領額が上限内であっても、共同媒介業者との合計額が上限を超えてしまえば違反となります。

  • 対策: 共同媒介や客付業者・元付業者が分かれる取引の際は、契約の準備段階で「誰から、いくら報酬(手数料)を受け取るのか」を業者間で明確に書面やメールで合意するプロセスを義務付けましょう。報酬の合計額が借賃の1ヶ月分(+消費税)に収まっているか、営業担当者だけでなく経理・管理部門でも請求書発行前に最終確認を行うことが重要です。

4. まとめ

重要事項説明書や契約書の作成、そして適切な報酬の受領は、宅建業者のプロフェッショナルとしての最低限の義務です。「フォーマットの古いものをそのまま使ってしまった」「共同業者がいくら受け取るか把握していなかった」といった管理不足は、厳しい行政処分の対象となります。

今回の株式会社デュアルアシストの事例を教訓に、自社の契約書類フォーマットが最新の法令に対応しているか、また共同媒介時の報酬確認ルールが形骸化していないか、今一度社内で見直すことを強くお勧めします。