重説・契約書の記載漏れと報酬受領超過のトリプル違反!業務停止22日を招いた賃貸媒介のリスク管理

行政処分実例

賃貸物件の仲介業務は、日常的に反復継続される定型業務が多く、「いつも通りやっているから大丈夫」という油断が生じやすい領域です。しかし、重要事項説明書(35条書面)や契約書(37条書面)の記載漏れ、そして報酬額の認識誤りが重なると、企業活動を長期間ストップさせる重大な行政処分へと発展します。

今回は、賃貸借契約の媒介において、法定書面の記載不備と仲介手数料の上限超過が重なり、東京都から「22日間の業務停止」という非常に重い処分を受けた事例をご紹介します。この事例から、自社の業務フローに潜む「慣れによる落とし穴」を点検していきましょう。

1. 行政処分実例:有限会社コーエー商事のケース

まずは、実際の処分内容を確認しましょう。

  • 事業者名: 有限会社コーエー商事(免許証番号:東京都知事(9)第58483号)
  • 本社住所: 東京都練馬区
  • 処分等年月日: 2026年3月10日
  • 処分等を行った者: 東京都
  • 処分等の種類: 業務停止(22日間)
  • 根拠法令: 宅地建物取引業法第65条第2項第2号

【違反行為の概要】 被処分者は、令和4年(2022年)12月に行った建物の賃貸借媒介業務において、以下の3つの法令違反を犯した。

  1. 重要事項説明書(35条書面)の記載漏れ(宅建業法第35条第1項違反) 法令に基づく制限の概要、建物状況調査の実施有無、無断不在1ヶ月以上での当然解除の定め、反社会的勢力排除の解除の定め、台所の整備状況についての記載が欠落していた。
  2. 賃貸借契約書(37条書面)の記載漏れ(同法第37条第2項第3号違反) 授受される「礼金」についての記載が欠落していた。
  3. 報酬の限度額超過(同法第46条第2項違反) 共同媒介業者と共に、貸主・借主の双方から合計で「借賃の1ヶ月分の2.2倍」に相当する金額の報酬を受領した。

事例のポイント 免許更新回数「(9)」という業歴の長い企業であっても、日常的な賃貸媒介において基本的な書類の記載漏れと手数料計算の誤りを起こし、結果として「22日間」という非常に厳しい業務停止処分を受けています。特に、複数業者を挟む取引での報酬上限の勘違いは致命的です。

2. 法令のおさらい:違反となった3つのポイント

本件で問われた3つの法令違反について、重要なポイントを整理します。

① 35条書面(重要事項説明書)の記載事項 物件の基本設備(台所の整備状況など)やインスペクションの有無はもちろんのこと、契約解除に関する特約(本件では無断不在による解除や反社排除条項)がある場合は、借主が不測の損害を被らないよう、必ず事前に重要事項として説明・記載する義務があります。

② 37条書面(契約書)における金銭の記載 借賃(家賃)以外に授受される金銭の額および授受の目的は、37条書面の絶対的記載事項です。本件では、賃貸借契約で極めて一般的な「礼金」の記載が漏れていました。

③ 賃貸借媒介における報酬の上限(共同媒介のケース) 宅建業者が賃貸借の媒介を行う場合、依頼者の双方から受領できる報酬の合計額は、原則として「借賃の1ヶ月分以内(消費税等を含め1.1ヶ月分以内)」です。これは、複数の業者(共同媒介)が関与した場合でも同じです。自社と他社でそれぞれ1ヶ月分ずつ受領し、合計で2ヶ月分(本件では消費税を含め2.2倍)を受け取ることは明確な法令違反となります。

3. 自社で気をつけるべきこと(実務指南)

日々の賃貸仲介業務において、このようなトリプル違反を防ぎ、安全な取引体制を維持するためには以下の取り組みが不可欠です。

  • 重要事項説明書・契約書の作成システムと雛形のアップデート 特約条項(反社条項など)や法改正に伴う追加項目(建物状況調査の有無など)は、古いフォーマットを使い回していると記載漏れが発生します。法務担当者が定期的に最新の法令に適合したテンプレートに更新し、必須項目が空欄のままでは印刷・出力ができないシステム上のロック機能を設けるなどの工夫が必要です。
  • 「作成者以外の目」による事前チェックの徹底 台所の設備状況や礼金といった極めて基本的な項目の記載漏れは、担当者のヒューマンエラーによるものです。署名捺印をもらう前に、必ず店長や事務担当者など「作成者以外の第三者」がチェックリストを用いて確認するフローを徹底してください。
  • 共同媒介(客付・元付)における報酬総額の確認 「自社の顧客から1ヶ月分をもらうだけだから問題ない」という認識は誤りです。共同仲介の場合は、相手方の業者がいくら報酬を受領するのかを確認し、取引全体で「貸主・借主からの合計額が家賃の1ヶ月分(税別)以内に収まっているか」を調整しなければなりません。この原則を全営業担当者に再教育する必要があります。

4. まとめ

免許の更新回数や営業経験の長さは、コンプライアンス遵守の免罪符にはなりません。むしろ「慣れ」が確認作業の形骸化を招き、結果として重要事項の不告知や不当な報酬の受領といった、消費者保護の根幹を揺るがす事態を引き起こします。

業務停止処分は、長年培ってきた信用を一瞬で失墜させます。本事例を教訓に、自社の賃貸借契約のフローにおいて、法定書面の記載項目の抜け漏れがないか、そして報酬の計算ルール(特に共同媒介時)が正しく理解・適用されているか、早急に社内監査を実施してください。