重要事項説明書の「記載漏れ」に潜む罠! 権利関係と契約解除の正しい記載方法とは?

行政処分実例

宅地建物取引業において、お客様が不測の損害を被ることを防ぐための最重要書類が「重要事項説明書(35条書面)」です。日々の業務で雛形(テンプレート)を活用し、作成し慣れているからこそ、物件ごとの個別確認が甘くなり、思わぬ法令違反に直結するケースが後を絶ちません。

今回は、東京都内で長年営業している宅建業者が、賃貸借契約の重要事項説明書における「記載不備(権利関係および契約解除事項の記載漏れ)」を理由に、東京都から行政処分(指示処分)を受けた事例をご紹介します。この事例から、自社の書類作成プロセスに抜け漏れがないかを確認してみましょう。

1. 行政処分実例:株式会社翔家のケース

まずは、実際の処分内容と違反の事実を確認します。

  • 事業者名: 株式会社翔家(免許証番号:東京都知事(8)第59048号)
  • 本社住所: 東京都豊島区
  • 処分等年月日: 2026年3月12日
  • 処分等を行った者: 東京都
  • 処分等の種類: 指示(根拠法令:宅地建物取引業法第65条第1項)

【違反行為の概要】 同社は令和2年12月に建物の賃貸借契約の貸主代理業務を行った際、交付した重要事項説明書(35条書面)において以下の違反が認められました。

  1. 「登記された権利」の記載不備(法第35条第1項第1号違反) 本物件上に存する登記された権利について、「根抵当権」と種類のみを記載し、その権利の内容を記載しなかった。
  2. 「契約の解除に関する事項」の記載不備(法第35条第1項第8号違反) 契約の解除に関する事項について、中途解約に係る事項のみを記載し、違約解除等に係る事項を記載しなかった。

【事例のポイント】 このケースでの最大の焦点は、「嘘を記載した(虚偽説明)」わけではなく、「記載すべき要件を満たしていなかった(一部記載漏れ)」という点です。東京都知事(8)という更新回数を重ねたベテラン業者であっても、基本的な確認を怠れば行政処分の対象となる厳しい現実を示しています。

2. 法令のおさらい:宅建業法第35条の記載要件について

宅建業法では、重要事項説明書に記載すべき事項を厳格に定めています。今回の事例で問題となった2つの項目を改めておさらいしましょう。

  • ① 登記された権利の種類及び内容(法第35条第1項第1号) 物件に抵当権や根抵当権などが設定されている場合、単に「根抵当権あり」と種類を書くだけでは不十分です。お客様にとって重要なのは「万が一の際、自分の権利(賃借権など)がどうなるのか」です。そのため、登記簿謄本(全部事項証明書)に基づき、「極度額」「債務者」「根抵当権者」といった具体的な権利の内容まで正確に記載する義務があります。
  • ② 契約の解除に関する事項(法第35条第1項第8号) 契約解除の条件は、当事者間のトラブルに直結しやすい項目です。「中途解約(解約予告期間など)」だけでなく、借主の家賃滞納や用法義務違反による「債務不履行(違約)による解除」の条件や手続きについても、漏れなく記載しなければなりません。

3. 自社で気をつけるべきこと(実務アドバイス)

このような行政処分を未然に防ぐため、宅建業者は自社の実務プロセスを見直し、以下の管理体制を徹底する必要があります。

① 登記簿謄本は「取得」するだけでなく「読み解き、反映」する 実務担当者が登記簿謄本を取得して満足してしまい、雛形に「有・無」だけを丸付けして終わらせてしまうケースがあります。 【対策】 根抵当権や抵当権、賃借権などの登記がある場合は、乙区(所有権以外の権利に関する事項)の記載事項をすべて確認し、極度額や債権者名などを重要事項説明書に正確に転記するルールを徹底してください。

② 契約書と重要事項説明書の「突き合わせ確認」 賃貸借契約書には違約解除の条項がしっかり書かれているのに、重要事項説明書には中途解約しか書かれていない(=書類間の不整合)というミスは、非常に多く見受けられます。 【対策】 重要事項説明書は単独で作るものではありません。必ず「賃貸借契約書(案)」と並べて、解除条項が完全にリンクしているか(網羅されているか)を突き合わせるチェックリストを導入しましょう。

③ 雛形(テンプレート)の過信と「コピペ」の罠を防ぐ 過去の似たような物件のデータをコピー&ペーストして作成すると、本来修正すべき権利関係や特約事項の直し忘れが発生します。 【対策】 担当者一人の目視確認には限界があります。作成者以外の宅建士や管理職が、原本(登記簿や契約書案)をもとに客観的な視点で「ダブルチェック」を行う体制(チェッカー制度)を構築することが、最も効果的なリスクヘッジです。

4. まとめ

重要事項説明書の作成・交付は、不動産取引におけるプロフェッショナルとしての最も基本的な責務です。「うっかり書き忘れた」「雛形に項目がなかった」という言い訳は、お客様にも行政にも通用しません。

今回の株式会社翔家の実例は、長く実務に携わる中で生じがちな「慣れによる確認不足」に警鐘を鳴らすものです。自社の重要事項説明書のフォーマットが最新の法令に対応しているか、また、担当者任せの属人的な作成フローになっていないか、今一度社内点検を実施して、確固たるコンプライアンス体制を築きましょう。